このブログの片隅に書く 「この世界の片隅に」を観て

※ネタバレありのためこれから見に行く人や未見の人はご注意ください

前回の更新から1年以上放置してたブログだけど、良い加減更新します。
この世界の片隅に」を観に行ってからそろそろ1週間が経ち
このままでは書かなくなるだろうと思いとりあえず書いてみようかと

良い映画評や感想はもう他の人が山ほど書いてるんで躊躇してたけど
自分なりに思ったことを

まず観る前に友達から言われたけど、未だにこれを”反戦映画”だと
思ってる人がいるみたいで。観た人はもう分かってると思うけど全然違う。
日本で戦時中戦後を描いてるアニメ映画っていうとどうしても
火垂るの墓」という作品の存在が大きいからかなーという気もする。

広島に住む浦野すずという一人の女性の半生が戦前~第二次世界大戦~戦後
という時代背景を通してとても丁寧に描写されていく。
ほんとに何気ない仕草や演出にこだわって作られていて、まずそこに感動する。
自分は原作は未読で、作者の作品では「夕凪の国 桜の街」「長い道」を
読んだ事があったのだけど、暖かな絵の再現度も物凄くて原作ファンや
作者の作品揃えてるような人はそれだけで泣いてしまうんじゃないかと。

広島で慎ましくも優しい家族と友達に囲まれ幸せな時間を過ごしていたすずは
19歳になり、ある日いきなり顔も知らない男と結婚することに。
この時代には珍しくも無かった事だろうけど、当然すずは困惑したまま
家族とともに相手方の実家へ。そこで会った周作という人に嫁いで
知らない土地や人に囲まれながら少しずつ馴染んでいくのだけど
やがて戦争の影がどんどん濃くなってきて・・・・

最初のあらすじをざっくり書くと大体こんな感じだろうか。
各所の感想でも見たけど、とにかく最初は笑えるシーンが多い。
主人公(ヒロイン)のすずさんが子供の頃から天真爛漫というか天然で
一挙手一投足が可愛くて仕方ない。そんな彼女の周りは常に優しい世界であるかのよう。
旦那の周作さんは不器用であまり感情を表に出さないタイプ。
でも妻であるすずの事は大事に思ってるし、夫の姉はちょっといじわるだけど
その子供の晴美ちゃんは完全に天使だし。
そんな感じで前半はほっこりしたりクスッとなったりして楽しい。
観ていて「あーずっとこんな風に最後まで話が続けば良いのに・・・」なんて思わず考えてしまった。

 

その後を知っていれば当然そんな時間が長く続かないことは分かっていて。
否応なく戦況は激しさを増していき、スクリーンにも時間が「昭和18年○月」
とか、あの日までのカウントダウンのように表示される。
食料は配給制になり、その日の食事にも困るような時でもすずは決して
悲観的にならずに野菜と米を一緒に混ぜたり野草を使ったりする。
この料理がいちいち美味そうで。いや多分(というかまず間違いなく)美味いわけは
無いんだけど。だって小魚3つか4つとかだし。
水でふやかした米(ポップコーンみたいだった)はさすがに劇中でも不評だったし。
しかしこの辺のシーンは文字通り「生きている」実感があった。
あと野菜切ってる時まな板と包丁をバイオリンみたいに持ってるすずさんも凄い可愛い。

で、周作さんのお父さんも兵役から帰ってこなくなり旦那も忙しくなり
周りの少年もどんどん兵隊として連れて行かれる日々が続き
すずが外で晴美ちゃんと外出してるときに空襲が起きる。
この時の演出も凄い印象的だった。映画を観ている人は知ってると思うけど
すずは絵を描くのが好きで大人になってからも描いていた。
空から爆撃機が爆弾が降ってきて音もかなりデカくて衝撃あるようなとこを
まるですずが白い画用紙に絵を描くように見せていく。

昭和19年から20年8月あたりはどんどん時間の刻み方が細かくなってきて
歴史を知っていても心底このまま来ないでくれ・・・て思ってしまう。

それから生死不明だった周作のお父さんの居場所が分かって晴美ちゃんと
一緒にすずがお見舞いにいくところ。
もう観ていてこの後の流れが一番辛かった。勿論戦争が悪いんであって
誰が悪いのでもないのだけど・・・だから余計に辛い。
今こうして思い返しても悲しくなるところだ。(この辺が気になる人はぜひ劇場へ)

そして8月6日。あの日。広島に原爆が落とされた日がやってきた。
ここは敢えてだろう、思ったよりさらっと描写していたように思う。
しかしどれだけ細かく書いたとしても、全て実際に起こってしまった事だ。
最初に書いたとおりこれは”反戦映画”ではないのだから。

それからわずか9日後の8月15日、昭和天皇玉音放送(多分実際の音声)を
聞き入るすずと近所のおばさんたち。
何を言ってるかよく分からなかったのか一人が「これって負けたってことかね?」と首をかしげる。
あまりにも呆気なく戦争は終わった。
周りが拍子抜けするなか、すずは立ち上がり怒りに打ち震えて叫ぶ。
「報われるはずだったのに!勝つはずだったのに!」と。
今までどんな辛い事や苦しい事があっても常に明るく前向きだった彼女が
初めてハッキリと感情を剥き出しにして激怒する。
演じていたのんの演技も素晴らしく胸に迫るものがあった。
それは恐らく作中、ひいては広島長崎そしてあの頃虐げられた
全ての日本人の気持ちを代弁しているかのような迫力だった。

やがて訪れる平穏。失った物は多かったけどようやく平和が訪れた。
周作さんも軍隊が解散になり帰ってきた。

それからやや唐突に思えるラストの孤児が出てくるところ。
あれは正直心臓に悪かった・・・だって明らかにすずが原爆で死んで
その子供みたいな演出なんだよ。作品中盤くらいで(直接は言わないけど)
すずが妊娠したと思われるやり取りがあってそれからその件特に触れられないから余計にというのもある。
まあ少し冷静になれば原爆落ちる前のドームを(生まれてもない)子供と
一緒に観てるわけないって分かるし、これは色々意図してやってるんだろうけど。

そんなこんなでやがて物語は終焉を迎える・・・・のだけど
エンドロールにもちょっとした仕掛けが合って
本作はいわゆるクラウドファウンディングで資金を集めて作られた映画で
スタッフやキャストのクレジットが出たあとでその人たちの名前もずらっと出てくる。
(ARIA佐藤順一監督や、本作の監督である片渕監督が手がけたBLACKLAGOONの作者の名前を見つけてニヤリとした)

で、そこにもショートストーリーみたいなのがあって
観客を最後まで楽しませる工夫があって良いなあと思った。

その辺りはライター柴さんの記事が詳しい。↓

shiba710.hateblo.jp


この作品は多くの人が指摘してる通り、片渕監督の他の作品「BLACK LAGOON」や

マイマイ新子と千年の魔法」等とどこか繋がっているところがあるように思う。

歴史の表舞台にはけして出て来ないような場所・・・「世界の片隅」にも
そこに住む人々の生活があって、例えどんな辛い状況でも希望や救いがある。

映画は戦争が終わった直後くらいで終わるけど、きっとすずさんはどんな
困難があってもあの困ったような笑ってるような何とも言えない顔をして
明るく生き抜いたのだろう。優しい家族とともに。

とにかく能年ちゃん・・・というかのんさんが最高にチャーミングに
すずさんを演じ切ったことに僕は惜しみ無い拍手を送りたい。
やっぱり良い女優さんだと改めて再確認。
出番は少なかったけど、頼りがいのある周作さんと好演した細谷佳正氏も
良かったし最後デレる義理の姉さんも良かった。
そして晴美ちゃんは最後まで天使(大事な事なので二回言いました)
すずの幼馴染みも小野Dが良い味してたなあ・・・
すずの妹ちゃんもめっちゃ可愛かったからもっと出して欲しかった
遊女のリンさんと遊びたい(意味深)

最後はもう思いきり脱線したけど、「君の名は。」といい「シン・ゴジラ」といい
今年はこんなに映画、しかも邦画が盛り上がるとはちょっと驚きだった。

これから追加で上映劇場増えるだろうし、立ち見や完売だって人や
近所でやってるとこ無いって人はぜったい映画館で見るべき作品ですよ。

僕の中で夏が来るたび見たくなる映画で「時をかける少女(細田版)」があって
公開直後から数えて6回くらい見てるけど大体同じとこで笑うし泣いてるっていう。
とりあえず、来年の夏からはそこにもう一つ映画が加わったのは確かなようだ。


以下参考記事とか

blog.goope.jp

note.mu

magazine.manba.co.jp

www.tbsradio.jp